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恋はいつしか上書きされて行くもの
だけど最初の切なさ覚えてる
君と出会った夏の空の下
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暑い天気のような夏の情熱は、秋を通り過ぎるうち、薄いろうそくに変わっていた。
金浦空港の初対面、日本から初握手会。全てが忘れられない思い出だろうが、何らかの違和感が頭の中で回り続けていたことを告白する。
正直、この時の自分は「初心者の感情」に過ぎなかったかもしれない。
PRODUCE48がきっかけで48グループに興味を持ち、色んな動画を探す中で遭遇した総選挙ドキュメンタリーの一場面。毎年繰り返される銃声無き戦場、その真ん中で一生懸命頑張り続けるメンバーや推し達。それは、文化衝撃だった。
金で全てが決められる総選挙の辛さに泣きながらも「絶対壇上に立って上げたい」と語った、とある中年推しの姿は、同感の心を持ちながらも、頭では理解出来なかった。
何の為に自分の人生を投じるんだろう。庶民な自分にはもう、無理。
酷烈な冬が過ぎた。
迷いながらの立ち上げだった韓国選挙チームの90日間の挑戦は、自分の中の大半を変えさせた。
数値的な見た目は悪いかもが、心の残燭はたいまつに、烽火になった。人は経験と学習から学んで蓄える存在であることを、その経験の重さは決して軽くないことを改めて感じる。
14名の真心は「わずか」とゆう三文字で退けるものではない。人の夢を応援することって、どれだけ厳しくて辛いことなのか。自ら体得した方々のあの感情は、誰でも手に入れるものでは無いんだろう。
まるで智代梨の戦友になった気持ちを持って、福岡行き飛行機に身を乗せた。
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見たことない景色が広がる
記憶を修正しながら
いつしか大人になってしまった
過去か未来か
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2019年4月6日(土)、福岡県・北九州市 小倉 / 晴れ
数え切れない人の群れが目の前に広がる。年輪は見えるが、純情を持っている推し達の笑顔は幸せそのものであった。再会の時間もどんどん近づいて来た。
午後3時、13番レーン同窓会の幕が開かれた。笑顔で歓迎する智代梨の姿が大きく見える。
「(手の甲に付いているキャラクタシールを見ながら)何これwwwwww」
「(ファンの方に)貰ったのwww」
「全部張ってたんかい!www いやぁ~智代梨もさぁ!」
「可愛い~~キヨウォ(可愛い)~~ (自分の着てるソロイベントTシャツを指して)え?これ!」
「買った買った!www マウリチング(友達)と一緒に!」
「わぁ嬉しい~~本当にありがとうT_T」
「実はさぁ福岡に友達が住んでて、ネットで注文して友達に送って、昨日かずちゃんで貰ったの!」
「あぁ昨日かずちゃん?嬉しい~~」
「今夜も明日もwww」
「wwww昨日何食べた?」
「昨日はおにぎりと味噌汁~」
「めっちゃ美味しいよねあれ~」
「そうそう!めっちゃ美味しくて~ 初めて食べてたけど本当に良かったのT_T ハンバーグとかは食べてたけどおにぎりは初めて!」
「へぇぇ~~ えっ韓国は無いの?」
「いや、あるけどやっぱりここが本場でしょう!味が違うからなぁ~」
「わぁ嬉しいT_T そう言ってくれて~~」
「いやいやマジで美味しかったからね!www 今夜も食べるわ!」
「おぉぉ~うむ、、智代梨~チュチョン(お勧め)~ 茶蕎麦サラダ~!」
「茶蕎麦サラダもめっちゃ美味いよね!だからどんどん食べて太っちゃってさぁ~~」
「wwwwwwwwwwww一緒にダイエット~~!!」
「そうそうT_T いつもダイエットしてるの見てて本当に申し訳なくてT_T 推しメンはこんなに頑張ってるのに、私はどんどん太っちゃってさぁT_T」
「大丈夫大丈夫~~ かずちゃんでいっぱい食べて、後からダイエットしようね~」
「そうそう!!だから日曜日まではどんどん食べて、月曜日からダイエットする!」
「うんうん!一緒に頑張ろうね~~ 嬉しい会いに来てくれてT_T いつ韓国?」
「月曜日の朝便でT_T」
「早く出ないとねT_T」
「そうそうT_T それで~日曜日は夜遅くまで飲んで、月曜日朝にすぐ空港に行こうかなぉと思ったりもするし~」
「wwwwww智代梨も月曜日朝に帰る~~」
「あっそう?飛行機で?疲れそうだねぇT_T」
「いやいや大丈夫だよ~ 本当に嬉しい会いに来てくれてT_T」
(時間でーす)
「いやいやこちらこそ!また明日来るけん~~(博多弁)」
「wwwwww博多弁wwwwありがとう~~」
半年振りの再会とは言え、昨日会ったような気楽さで話し掛けてくれる智代梨。友達感を与えてくれる彼女のコミュニケーション力は誰も真似できない魅力の一つだろう。惜しいことは物足りない時間だけ。
実は内心、真剣に聞きたいこともあった。
握手会の前夜、同じく半年振りのかずちゃん(お父様)とも色んな話を交わした。主な話題はやはり総選挙で、韓国選挙チームの苦労談や自ら挑戦して気付いた事、90日間の旅情を終えて感じた事などを素直に話した。
握手会ではいつも晴れ女の智代梨だが、モバメを通じて彼女から伝えられた曇り天気の手紙を読んで「もし、とある考えを持っているのではないか」とゆう自分の推測からの質問を出した。
ずっと聞き手の姿であったかずちゃんから「じゃあ、明日直接聞いてみたらどうですか?」との答えがあった。
ファンの皆が揃った土曜日の夜、私は「やっぱり言えませんでした」と打ち明けた。
「そうなるはずでしょう」と言われそうなかずちゃんの表情から、やっと気付いた気がした。お父様はもう分かってらっしゃるなと。それが多くのファンの愚問に、お父様だからこそ出来る賢答であったんだなと。
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心が折れる度に
夢の続き何度も眺めた
あの時僕らは期待して
どういう未来を想像してたか
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2019年4月7日(日)、福岡県・北九州市 小倉 / 晴れ時曇り、雨
疲れは溜まったまま、でも急がなきゃあかん。一足違いで逃してしまった小倉行き特急を待つ余裕も無い。早速、新幹線切符を買って、金で時間さえ買える時代をふと感じる。
午前10時。生誕ブースを開いてみるが、会場の空気は昨日と大違い、少なくなった客の規模。HKTの有り無しの差がこんなに大きくなるなんて、思いも無かった。 パネルを持って正門とブースを回り続けいても、ロビーは各メンバーの生誕委員だけ。もどかしい気持は隠されず、段々切なくなってゆく。
有難いこともあった。それは、「プロデュース効果」で推しになった韓国ファンのメッセージがある程度集められたこと。ハングルだけの生誕メッセージがどれだけ読まれるか心配もするが、「相変わらず智代梨を応援する人々が玄界灘の隣に存在している」とゆう事実を伝えるだけでも、きっと意味はあるんだろうと思う。
青い空の色も徐々雲に覆われるが、会場はまだ静かな雰囲気。とあるレーンでは推し増しの客も1S動画とか2S写真を撮ったとの話も聞かれてる。握手しに訪れたハンガー団の顔も暗くなってゆく。
午後6時半、38番レーンは開かれたものの、握手列はすぐ数えられるほど短い。まとめ枚数を減らし、一枚づつレーンを回ろうとする攻め方で臨んでみるが、昨日より厳しく「時間でーす」を叫ぶ剥がし屋さん。。。
「どうも~」
「どうも~~!めっちゃ早くねぇ?!新幹線かと思ったよ~」
「wwwwww初めて乗ったんでしょ?」
「そうそうそう!生誕ブースの時間に合わせようとしてさぁ~(時間でーす)めっちゃ高いやん!」
「wwwwwwまたねぇ~~」
何も無かったように答えたけど、短い対話の中に込んでいる智代梨の心遣いは一言で縮約出来ないくらい大きくて美しい。見てくれたんだな。推しの心を分かってくれるのはやはり推しメンだけ。
半ばを通り過ぎた時間。早い剥がしの中、推し増し列が続々合流するお陰でレーンは続いていた。
19時半。受付は終わったけどまとめ推し達が居て、最後まで智代梨に会うことが出来た。相変わらずの笑顔でみんなと向き合う彼女の姿が、いつもより有難く感じられる。
「ああ嬉しい~~おっ、ツーショット?!」
「そうそう!一旦話からしょうかなぁ?」
「あ、良いよ~」
「今日はもう本当に感動しちゃいましたT_T」
「いやこちらこそT_T」
「さすが劇団智代梨ひとりさん!」
「wwwwww色々大変だったけど大丈夫だったかなぁ」
「うんうん!めっちゃ嬉しくて~~ やぱりこうやって直接会ってさぁ話し合って向き合わないとね~」
「うんそうだね!だから嬉しいこうやって会いに来てくれるのが、、私が~ 本当は会いに行きたい韓国に!ミーティング? で、韓国で何か「会いたいけど、会えないです」ってコメント?沢山貰うから、その度に胸が、、、 ああぁ行きたーい!本当に行きたいファンのみんなに会いに行きたい!」
「待ってるよずっともう~ でも、今はうちらが行くしかないなかぁて、、」
「ねぇそれが凄く嬉しい!繋いでくれてる?ツイッターとか!それが嬉しい、、、」
「そうそう、智代梨とも繋がってるし、ご家族とも繋がってるし、ちょりすとのみんなとも繋がってるし」
「うーんうん嬉しい日韓で~~」
「だよねぇ!こうやって会えるなんて思いもなかったからねぇ~」
「うーん!だって時間?時間が経っても会いに来てくれて、智代梨に会いに来てくれて本当に嬉しい!」
「いやぁもう智代梨のことが一番好きだからね^_^」
「いやーん嬉しいぃ本当に~ありがとう~~」
「いやもうこちらこそ~~まぁ何かまぁ真面目な話はDMでしちゃったからさぁ」
「あああ!見てる見てる~ちゃんと!」
「ありがとう~いつも付いて来るからね!」
「ありがとう~~」
(まもなくでーす)
「じゃあ最後にねツーショット撮ってみようかなぁ」
「wwwwww上手流れが!」
「www思い出としてねぇ~~」
「そうだよ~ じゃあ、、、ハーナデゥーセー(いーちにーさんー)、、、良い!」
(時間でーす)
「ありがとー!また次回ねぇ~~~」
「また次回!ありがとう~~~」
夢な瞬間はあっという間。
智代梨に会える次の瞬間はいつになるのか。
瞬間と瞬間の間、我らは何から幸せになって、何からため息をつけられ、また何から誇りを感じられるのか。
48時間のうち、3時間の出逢いの為、玄界灘を超えて来てくれた方々。色んなグッズで智代梨と推しに喜びを与えてくれた方々。推しメンの為に生誕ブースを開き、苦労して下さった方々。そして、みんなの心を察してくれるプレゼントな存在、中西智代梨。
我々は彼女と共に永遠に続いてゆく、汗と涙のLove Travelerだろう。
「…この飛行機の運行時間は1時間15分を予定しております。仁川行きZE642便、まもなく離陸致します。」
日常の空に向かって飛び出す飛行機の中。目を閉じてイヤフォンをつける。流されてる音楽はLOVE TRIP。
塵の多いせいか、ひりひりする目が我慢出来ない。こらえてもわき出てくる塵は、いつかまた会える日になれば止められるのだろうか。
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君に会えたら
何を言えるのだろう
あの日と同じで校舎の片隅で
大人になった僕はようやく
正直になれるのだろうか
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